妄想歌謡劇 上を下へのジレッタ~セリフ覚え書き~

 

上を下へのジレッタセリフ覚え書き。

セリフの羅列のみで情景描写は書いておりませんし、うろ覚えの会話はニュアンスで強引に繋いだり一部省いてありますことをご了承下さい。

なお劇中歌はセリフの前後にくる歌詞のみ載せておりますので、全容はパンフレット参照でお願いします。

「」⇒セリフ
紫文⇒曲名
青文字⇒歌詞
⇒歌詞省略
⇒曲終点




それではどうぞ、ご堪能しやがれ。


 




♢第一幕♢

M01 虚構の共犯者


番組P「おいおい門前まずいぞ今のオープニングは!何でよりによって竹中プロのタレントを端っこに!?」
門前「説明するまでもないでしょう!」
番組P「ほら来たぞ来たぞ竹中の社長がはいぺったーーーん!」
竹中「説明してもらえるかしら!」
秘書「本番中に立ち位置が変わった理由です!」
門前「おたくのタレントがあまりにも見苦しかったもんでどいてもらったまでです」
竹中「見苦しい?うちの子が?」
門前「テレビは常に現実離れしたものを提供しなきゃいけないんです!それなのにあんな近所の娘でも出来るような歌と踊りをやられちゃったら…」
竹中「それを現実離れしたものに見せるのがあなた方の仕事でしょ」
門前「せめてガラスならダイヤに見せてやれないこともないですよ。でもそこら中に転がってる石ころじゃあ、なにをやっても石ころでしょう」
竹中「それは、あなたが無能だからじゃなくて?」
門前「無能…?この俺が?」
竹中「今すぐこの仕事を辞めた方がいいわ。そうでしょ?」
番組P「彼をクビにしろと?しかし生意気ですが才能はある奴でして…」
竹中「この男を切らないなら全ての番組からうちのタレントを引きあげます」
番組P「門前、貴様はクビだ」
門前「えっ!!?」

~門前宅~
リエ「番組見たわ。竹中プロを怒らせなくてもクビになってたかもね」
門前「またイチから出直しだ!…いい機会だリエ。お前とも離婚しよう」
リエ「(お茶をむせる)何がいい機会なの!?」
門前「でかいことをやるにはでかい犠牲が必要ってことさ。ほらこれに」
リエ「既に離婚届けまで…!」
門前「既にサインもしてある」
リエ「…逆らっても無駄ね…」
(電話鳴)
門前「はい門前。なに、視聴率?」
番組P「ビデオ速報で52%だ。これは快挙だぞ!」
門前「それで?」
番組P「それでってお前。社長が会いたいと仰ってる」
門前「会う理由がないねぇ。俺はもうクビになったんだから!」
(電話を切る門前)
番組P「門前!」

リエ「オーソン・ウェルズって俳優がいてね、彼は天才すぎて、仕事も結婚も上手くいかなかったそうよ。だからきっと、あなたもきっとそうなんだわ」
門前「…サインはしたか」
リエ「(離婚届けを手渡す)また誰かと結婚するの?」
門前「さぁね。したって長続きしないだろうよ」
編集者「お疲れ様でーす小説〇〇です!原稿の回収に参りました!
門前「! リエ!口述筆記だ!」
リエ「いやよ!私もうあなたの奥さんじゃないもの」
門前「銀座に着いためぐみは、来るとも来ないとも知れぬ高橋を想いながら、夜空を彩るネオンを見上げた。するとまるで、ペラペラペラペラペラペラ………信じていいの?めぐみは小さく呟いた。続く!」
リエ「悔しい!いつもの癖で速記しちゃったわ!」
門前「ご苦労」
編集者「先生はタフですな~」
門前「そんなことよりおたくの雑誌、芸能にも強かったよな?何か竹中プロについてネタはないのかよ」
編集者「ネタですか。そういえば、晴海なぎさって歌手ご存知ですか?」
門前「あー。顔を見せない覆面歌手とかいうあれか」
編集者「竹中プロは最近、彼女をクビにしたそうですよ」
門前「理由は」
編集者「さぁ~そこまでは。それじゃ、次号もお願いしまーす!」

門前「晴海なぎさねぇ…」
リエ「竹中プロに復讐するつもり?」
門前「コケにされたまんまじゃいられねぇだろうよ!」
リエ「分かるわ。私もそうだから。…執念深いのよ」
門前「…この部屋とここにあるものは全部やる。元気でな。もう会うこともないだろうよ!」
(走り去る門前)
リエ「会うわよ!きっと…」

***
なぎさ「(コンコン)失礼します!晴海なぎさです」
門前「よく来てくれた。入ってくれたまえ。……きっ、君が晴海なぎさ!?」
なぎさ「はい!本名は越後君子って言います」
門前「どうでもいいよ!!覆面歌手として活動してたっていう…?
なぎさ「はい、人前に出る時はこういうのを着けて」
門前「納得だよ…」
なぎさ「どういう意味です」
門前「竹中プロをクビになった理由は」
なぎさ「私の地元でリサイタルがあったんです。アイドルになった姿をどうしてもお父ちゃんに見せたくて、それだから私、仮面を」
門前「取ったのか?」
なぎさ「そしたら不思議なことに会場中が笑いに包まれて」
門前「不思議でもなんでもねーな」
なぎさ「その日のうちにクビになりました」
門前「…君、整形するつもりは」
なぎさ「アッハハ!ありませんよ!こう見えて私、ミス丸太ん棒なんですから」
門前「なんだそれ!?」
なぎさ「うちの田舎の伝統的なミスコンです。5日間道端に丸太ん棒みたいに突っ立って、言い寄ってきた男の数を競うんです」
門前「君に言い寄る男がいたってのかよ」
なぎさ「居たも何も、断トツの54人です」
門前「数え間違いだろう!」
なぎさ「間違ってません!」
門前「あ~~とりあえず歌を聞かせてくれ。ここにこれまで君が出したシングルの譜面がある」
なぎさ「その前になにか食べさせてください」
門前「テストが済んだら食わせてやる」
なぎさ「失業してからろくなもの食べてなくて」
門前「さぁどれを歌う!!」
なぎさ「出前をとってください!」
門前「あーーーもうこれでいいな!黄昏のフィナーレ!」
なぎさ「ラーメンかお蕎麦で結構ですから!!」
~♪~
なぎさ「はぁ…」

M02 黄昏のたぬきそば
なぎさ:
I love you. I miss you. Do you love me?
I love you. I need you. I do love you noodle...
門前「ヌードル!?」

なぎさ:あなたの好きな たぬきそば
門前「お前は一体なんの歌を歌ってるんだ!」
なぎさ「何か食べたらもっとちゃんと歌えます!」
門前「はい2番!」
なぎさ「待ってください!私もうフラフラ」
なぎさ:
I love you. I miss you. Do you love me?
I love you. I need you. I do love you noodle...
門前「ヌードル!?」

なぎさ:ズズズズズズズ... ズズゾゾゾーッ
門前「そばをすするなそばを!」



門前「えぇーー!!き、君!」
なぎさ「このぐらいで…ご勘弁を…」
門前「どういうことだこの顔は!」
なぎさ「また顔の話ですか!」
門前「だってまるで別人だぞ!?」
なぎさ「お水でいいから飲ませてください…」
門前「ちょーーーっと待ってくれ!…ミス丸太ん棒!」
なぎさ「はいぃ」
門前「その時も、腹は空いていたか…?」
なぎさ「そりゃあもう、5日間飲まず食わずで」
門前「からくりが分かってきたぞ。つまり君は、腹が減ると美人に変身するって訳だ。しかしその事を竹中プロは知らなかった。所属してる間は曲がりなりにも食えてたわけだからな」
なぎさ「お水いただきます」
門前「ちょっと待て!!」
なぎさ「いいじゃないお水くらい!」
門前「俺と契約しよう、なぎさ」
なぎさ「えっ、じゃあ、雇っていただけるんですか!?」
門前「そうなると芸名を変える必要があるな。そうだな…小百合チエってのはどうだ」
なぎさ「キャハハハ」
門前「何がおかしい!」
なぎさ「すいませんっ」
門前「俺に任せろ小百合チエ。この門前市郎が必ずお前をトップスターにしてやる…!」

~記者会見~
門前「えーこの度わたくし門前市郎は、芸能事務所門前プロを立ち上げました。そのご披露を兼ね、弊社の所属タレントであります、小百合チエをご紹介いたします」
チエ「小百合チエでございます」
記者「おぉ…!!」
チエ「どうぞ、よろしくお願いいたします」
(チエの腹が鳴る)
門前「!」
記者「…?なんの音だ?」
門前「会見は以上です!失礼いたします!」

記者「〇✕▲□!」
門前「うちはタレントを安売りしませんよ。初めから大勝負に出るつもりです。例えばそう、ブロードウェイのジミー・アンドリュウスと共演させるとかねぇ」
記者「(大笑)」
門前「何がおかしいんですか」
竹中「アハハハ!これがおかしくないってんなら、あなたは正気じゃないわ」
門前「いらしてたんですねぇ、竹中社長」
竹中「あの世界的スターが日本の無名タレントと共演する訳がない」
門前「どうしてそんなことが言えるんですか」
秘書「我が社すら相手にしてもらえないからだよ」
竹中「余計なこと言うんじゃない!」
門前「それはあなた方が、無能だからじゃないですか?」
竹中「何ですって!?」
門前「それじゃ、失礼」
竹中「…あのド素人め!見てくれだけでスターになれるほど芸能界は甘くはないわ!」

***
門前「尻を突き出せ!胸をぐっと寄せろ!そんで腹を黙らせろ…!
チエ「何か食べたらおさまります!」
写真家「はいOKでーす!」
門前「すぐに現像に回してくれ。一刻も早くアメリカのジミーに送るんだ」
(突然ドアが開く)
写真家「うわっ!」
門前「誰だお前!」
山辺「キミちゃん!」
チエ「オンちゃん!!」
門前「知り合いか!? あ~~そんなことより現像だ!」
写真家「はいっ!」
門前「早く行けよ!」

チエ「どうしてここに」
山辺「テレビで記者会見を見たんだ」
門前「お前は一体誰なんだ」
山辺「俺か?俺の名は、山辺音彦だ!」
チエ「私の幼なじみなんです。一緒に夢を追って上京してきたんです」

M03 食うか飢えるか


山辺「こんな貧相な顔になっちまって…」
チエ「見苦しい姿でごめんね」
門前「見苦しいのは元のツラだよ」
山辺「俺は本来のキミちゃんの顔が好きなんだ!」
門前「そっちが好きなのは日本中で君だけだ!」
山辺「なにっ…!?」
門前「そろそろインタビューの記者が来る。外で話をつけようじゃないか」
山辺「望むところだ!」
チエ「先生!オンちゃん!」
山辺「待ってなキミちゃん。戻ってきたら、一緒に腹いっぱい食べような」
チエ「オンちゃん!!!!」

~ビル工事現場~
山辺「おい!どこまで歩かせるつもりだ」
門前「だってここはビルの工事現場だぞ」
山辺「いいか、俺とキミちゃんはな!」
門前「婚約してるんだろ?でも二人して金がない。だったら大人しく彼女の成功を待ちな!」
山辺「馬鹿野郎!俺はな!(工事騒音)…ィーーンカシューってな…で、その所どうなんだ」
門前さん「すまない、全く聞こえない」
山辺「もう二度と言わねぇぞ!俺はな!(工事騒音)…ィーーーンカシューーーってな…さぁ答えを聞かせてくれ…!」
門前「ごめん。もう1回頼む!!」
山辺「ふざけやがってこの野郎っ…」
門前「うわっ!おい!だって音がさ!落ち着けよ!話そうじゃないか!なぁおいっ!下見てみろよ、危ないだろ!?」
山辺「うわっ!…お前、やりすぎだぞ!」
門前「何もやってねぇよ…おいっ、何するつもりだ、 うわっ、離せって!」
山辺「うわーーーーー!(落下)」
門前「山辺!おい返事しろ山辺山辺ーーー!」
***
作業員A「兄ちゃん、こんなとこにいたら危ねぇよ。あのすごーく深い穴にでも落っこっちまったら命がねぇ」
門前「命が…?」
作業員B「だから塞ぐんだ」
門前「塞ぐだって!?」
作業員A「なんだい?あの、すごーーく深い穴に何か落としちまったのかい?」
門前「いや、何も…」
作業員B「そいつぁ、すごーーーくよかった」
作業員A「くれぐれも自分だけは落とさないようにな…」
***
門前「山辺が死んだ…どうする俺……いやいや、死体は見つからねぇ。穴は塞がれちまったんだ!哀れ山辺音彦は、単なる行方不明ってことになる。…いや待てよ!チエの奴に何て説明する?あいつは俺と山辺が一緒だった事を知ってる!……どうする門前!!」
ナレーション「そうして悶々と1週間が経過したある日」
(電話鳴)
門前「はい門前。…何っ!ジミー・アンドリュウスが!?チエに食いついたか!」

~ホテル~
M05 Fake star

ジミー:踊りあかそう ツタンカーメン
門前「信じられるかチエ。あのジミーアンドリュウスがお前に会いにはるばる日本までやってきた」
チエ「あの薄っぺらい外人が?」
ジミー:
Ah- My ladies the world ladies!
Ah- Ah- My ladies the world ladies!
マネージャー「気をつけろジミー。テープと口が合ってないぞ」
ジミー「シッ」
マネ:You are just a fake star!

チエ/ジミー:期間限定の栄光
マネ「ナイストゥーミーチュー。ジミーのマネージャーです」
門前「門前です。ご覧なさい。すっかり意気投合したようですよ」
ジミー:You are just a 〇✕▼□!
門前/チエ「!?」
マネ「機材トラブルだ」
門前「機材?」
チエ「いきなりどうしたのかしら?」
門前「お前こそどうしたその陰気な顔は!」
チエ「だってオンちゃんが…」
門前「いい加減奴のことは忘れろ」
ウェイター「ルームサービスでーす」
(料理に駆け寄るチエ)
門前「ホステスとかけおちなんて随分と薄情な奴じゃねぇか。それより今はジミーだ。国際的スターの彼に気に入られ…おいっ!お前食うなーーー!!!」
ジミー「おいっ、チエはどこに行った!」
マネ「喋るな」
ジミー「まだ直らないのか!?」
マネ「直るまで口を開くな!」

(元の姿に戻ったチエ)
門前「あーーーーちっくしょーーー!」
チエ「すみませぇん…」
門前「走れ!今すぐホテル中を走り回って腹を空かせろー!!!」
門前/チエ/ジミー/マネ:Oh Oh Oh Fake star! 偽りの名声



~ビル工事現場~
ナレーション「一方、あの山辺音彦はビルの工事現場に落ちて60日経った今も、まだ生きていた」
山辺「今日こそ出口を見つけてやる……おや、こんな所にボタンが。御用の方はこのボタンを押してください?あはっ!あるよあるよ!」
(ピンポーン)
?「はーい」
山辺「うぉ!なんだこれは…誰か来る!……俺!?」
山辺「ああ。オレだ」
山辺「なんでそこにも俺が?納得のいく説明を…おい!落ち向け俺!」
山辺「いやなんか柱がさ…」
山辺「柱?じゃあどけてやるよ。お願いしまーす」
山辺「おっ?おい、いいのかよ!このビルを支えてる柱だろ!?」
山辺「話を逸らすな俺!ここは一体どこなんだ」
山辺「ここは……ジレッタさ!」
山辺「ジレッタ!…って何なんだ!?」
山辺「あぁーー説明している時間はない!カウントダウンはもう始まってるんだ!」
(5,6,7…)
山辺「数増えちゃってんじゃねーか!いつになったら駄目なんだ!?」
山辺「分からない!ウァァァァ!!!!(爆発)」

M07 ジレッタ1
山辺「ジレッタの説明については、爆死した俺に代わって生き残った俺が」
山辺/ハーレム:
俺のジレッタ! 俺の妄想! これがジレッタ! 俺の幻想!
俺の想像! これがジレッタ
山辺「ナレーション!」
ナレーション「そう。この山辺音彦はジレッタという妄想世界に入り浸ることで、辛うじて生きながらえていたのである」

山辺:エターナルに生きてみせる! ジレッタ
山辺「キミちゃん!何でここに!」
チエ「先生が良心の呵責に耐えかねて教えてくれたのよ。でも無駄足だったみたい。私はアンタのハーレムに加わるつもりはないわ!」
山辺「それは誤解だよ!彼女達はさすがに俺のソロじゃ寂しかろうと好意で集まってくれて…」
チエ「さ・よ・う・な・ら!」
山辺「待ってくれキミちゃん!知ってるだろ、俺にはキミちゃんしか」
チエ「悔しい…私今にも嫉妬の炎で燃えそうよ!」
山辺「熱っち!キミちゃん君ほんとに熱っちいよ!」
チエ「今にも炎上しそう!!」
山辺「キミちゃん!煙でてるって!きみちゃーーーん!」
山辺/ハーレム:
たまに火だるま! そして水中! 時に台風!
無事に乾燥! 快適!

(銃声)
山辺「うわっ!…門前!?」
ニセ門前「はっはっはー!俺ならここだ!」
山辺「瞬間移動…!」
ニセ門前「はっはっはー!俺ならここだ!」
山辺「意図が見えない」
ニセ門前「はっはっはー!俺ならここだ!」
山辺「おい出てきちゃってんじゃねーかよ雑だぞ!」
門前「はっはっはー!俺ならここだー!」
山辺「知ってるよ!」
(門前達に囲まれる山辺)
山辺「うわぁぁああ!……ちくしょうもんぜ…門前達め……」
《 つづく 》

***
山辺「うん。今回の出来はまあまあだったな。しかしジレッタん中で起こる事は、どれも俺の過去の漫画のアイディアだ」
(工事作業音)
山辺「!?レスキュー隊か!?おーい!ここだーー!……まさかこれも…ジレッタか?」


~記者会見~
記者「小百合さーん!ジミーとのご関係は!?ジミーと正式に契約を!?」
門前「会見で話した通りです。小百合チエのデビューコンサートは正月2日。客演はジミー・アンドリュウス!」
記者「ジミーが承諾した理由は?」
門前「シンパシーです。2人はお互いにしか分からないシンパシーを感じた、とだけ申しておきましょう」
記者「小百合さん一言お願いします!」
チエ「お腹が空いた…」
門前「……さぁ通してください!」

~門前宅~
門前「やったなチエ!俺たちとうとうここまで!………ん?まるで風船を抱いてるみたいだぞー」
チエ「そりゃもう!まる3日何も食べてなくて…!」
門前「許してくれチエ…お前の努力には頭が下がるよ。しかしこれも、お前をスターにするための試練だと思ってくれ」
チエ「スターになる前に餓死します!」
門前「おおっと。そろそろさっきの記者会見が放送されるなぁ」
チエ「(ため息)」

TV「続いてのニュースです。今朝、ビルの工事現場から男性が救出されました。男性は2ヶ月から3ヶ月の間閉じ込められていたとみられ…」
チエ「3ヶ月も!?一体ご飯はどうしてたのかしら…」
門前「奴だ!」
チエ「?」
***
門前「山辺のやつが生きてやがった…意識が戻ったらあの晩のことを話すに違いない。俺のことも、小百合チエの正体も。あーーーちくしょう!成功はもう目前だってのに!」

M08 偽りの代償

ジミー:Keep on lying. 昇り続けるしかないだろう? 昇り続けるしかない
ジミー「さぁ君の出番だ。プリンセスチエ」
チエ「…」
ジミー「うわああああ!!!」
門前「やめろチエ!ジミーの舌は食いもんじゃない!」
マネージャー「なんてキスだ!」

ジミー:食われた!
チエ:何かが喉に...
門前「何か!?」
ジミー:スピーカー!
チエ:飴玉かしら?
≪スピーカー≫
Keep on lying. 君が見つめてるうちは...
Keep on lying. 君から名を呼ばれるうちは...
チエ:聞き覚えのある甘い調べ
≪スピーカー≫ Keep on lying.
チエ「お腹!?」
チエ:私のお腹から!
ジミー:「吐き出せ!」
チエ:何を?
門前:止めろ!
チエ:どうやって!

チエ/ジミー:魔法をかけて 魔法をかけて 誰か私に 解けない魔法を!
マネ「もう無理だ引き上げよう」
ジミー「それでは契約違反だろう!」
マネ「行くぞ!」

門前「5分で元に戻れ!あとはジミーになんとか繋いでもらう。なぁジミー…ジミー?ジミーどこ行った!!ジミー!!!」
ファン:ジミー! ジミー! ジミーの歌を!

ファン:門前! 門前! 謝罪しろ!
門前「違う...」
ファン:門前! 門前! 責任を果たせ!
門前「違う!!!」
ファン:責任を果たせ! 責任を果たせ!


~1ヶ月後/ リエのマンション~
リエ「そろそろ来る頃だと思ったわ」
門前「お前も俺を笑ってんだろ」
リエ「私を他の連中と一緒にしないで」
門前「俺の周りにはもう誰もいない」
リエ「あなたはね、トガゲみたいに体の一部を失っても、またすぐに前より立派なものが生えてくるの。この部屋はそれまでの巣みたいなものよ」
門前「…さすがによく分かってんな。俺はまだまだこんなもんじゃない!この程度の挫折じゃ、かすり傷すら付きゃしないんだよ…」
(電話鳴)
リエ「はい……あなたによ。大学病院から」
門前「病院?……門前です。えっ、は、はい!すぐに伺いますから!」
リエ「これ以上まだ何か…待って!置いてくつもり?唯一の味方を」
門前「お前も着いてきてくれ」
リエ「行き先は?」
門前「ビルの工事現場だ」
リエ「工事現場!?」

~ビル工事現場~
医者「病院で容態が悪化しましてな。試しにここに戻してみたところ、安定したというわけです」
門前「そんなことよりどうして俺が。こんな男に見覚えは…」
医者「それは彼の妄想に決まって、あなたが登場するからです」
リエ「待って。彼がどんな妄想をしてるかなんて本人以外分かるわけないでしょう?」
医者「それが分かるんです。この聴診器を彼の胸に当ててご覧なさい」
門前「聴診器?」
医者「フフフフフフ」
リエ「すごくいいがわしいわ」
医者「なるべく頭を空っぽに。余計なことを考えるとジレッタに反映されてしまいますぞ」
門前「ジレッタ?」
リエ「なんだかお医者さんごっこみたいだわ」
***
門前「どこだここは!」
リエ「きゃっ!見て!」
門前「馬!?」

M09 ジレッタ2

ステレオタイプの西部劇 ヒーハー! 西部劇 ヒーハー!
門前「やめろ!俺の女になにするつもりだ!」
馬「お医者さんごっこだ!」
門前「!?」
ヒーハー! 注射 注射 注射

前代未聞の大手術 ヒーハー! 大手術 ヒーハー!
(銃声)
門前「うわっ!山辺!?チエ! おいっ!危ないだろ山辺!」
リエ「助かった…」
山辺:俺は保安官 ジレッタの保安官 ジレッタの和を乱す者は許さない


(山辺、拳銃を門前に投げる)
門前「どういう意味だ」
山辺「取れ!門前!」
リエ「決闘!?」
チエ「男なら大人しく拳銃を取りな!」
リエ「やめて!」
門前「いいさ。こいつとはいずれケリを付けなきゃならなかったんだ」
山辺「よく言った。さあ来い!」
(馬に撃たれる門前)
門前「ウァッ!……えぇーー!?」
リエ「撃った。馬が」
(息絶える門前)
リエ「ひどいわ!馬なんかに…馬なんかに…」
《 つづく 》

***
医者「お分かりいただけましたかな?」
門前「さっぱり分からない!!!」
リエ「今のは一体…」
医者「調べたところ、この鉄柱が発している超音波が彼の脳を刺激して、とんでもない妄想を生み出しているのではないかと」
門前「その妄想をどうして俺達も見ることが」
医者「それはこの男の精神波が強いからでしょうな。我々はこの妄想世界をジレッタと呼んでいます。彼があちらの世界でそう説明するからです。ここはジレッタだ、と」
門前「ジレッタ…」

~公園~
門前「リエ。俺が今なにを考えてるか分かるな」
リエ「ジレッタね」
門前「その通り。今度の仕事は芸能界なんかとはスケールが違う。今度こそ世間をあっと言わせてやる。門前市郎、一世一代の大博打だ」

M10 野望と現実のはざまで...


門前「つまり何か、君ほどの女があの田舎娘に妬いてるって言うのかよ」
リエ「…認めるわ。あの小百合チエの方の顔に、堪らないほど妬いてるのよ。いい?彼女と別れなければ私はあなたと組むつもりは無い」
門前「…分かった」
リエ「言ったわね」
門前「きっちり別れてやるから、お前は俺のそばにいろ」
リエ「…今夜は楽しかったわ。またね」


門前「……勝ち誇ったようなツラしやがって。悪いがこっちは女の嫉妬に付き合ってる暇はない。まずは資金集めしないとな。使い切れないほどの金と、えげつない功名心を持ったスポンサーを探すんだ!」
***
有木「わたくし、日本天然肥料社長、有木足と申します」
腰巾着「ありきたり!」
有木「有木!足!」
腰巾着「ありきたり!」

M11 Mr. Yesman


~ビル工事現場~
門前「有木社長」
有木「あーなんかすっごいテンション上がっちゃった…はっ!一体私は!?」
門前「これがジレッタです」
有木「あの感じのいい連中がいた世界がか!?」
門前「お気に召していただけましたか?」
有木「君!これは大当たりするぞ!」
門前「お力添えいただけるなら、有木社長がジレッタ界のパイオニアということに!」
有木「この私がパイオニア!よし!やろう!私を男にしてくれ門前君!」
門前「それはこちらのセリフですよ!」
有木「よし来い!」
チエ「オンちゃん!?キャーーーー!」
門前「チエ!?」
チエ「どけーーーー!」
門前「うわっ!死ぬぞーーー!!」
チエ「死ぬぅ!?」
門前「下手に動かせば死ぬ。彼は今生死の境をさ迷っているんだ」
有木「ちょっと待て。ジレッタの大元は死にかけているのか?そんな将来性の無い事業に協力は出来んぞ!」
門前「あっ、いや違うんです。そのー」
チエ「事業ってどういう事よこのおやじー!」
有木「おやじーー!?門前君!」
門前「はいっ!」
有木「今すぐこの美女を紹介したまえ~」
門前「それはまた改めてしますから!……リエか。この場所をお前に教えたのはあの女だな!」
チエ「どうしてオンちゃんがこんな事に!」
門前「あ、いや、それはそのー…事故にあったらしい!」
チエ「事故!?」
門前「しかし悲しむのはまだ早い。彼はいつも心の中で君の事を想っているんだよ」
チエ「先生にどうしてそんなことが」
門前「証拠を見せよう。この聴診器を彼の胸に当ててごらん」
チエ「先生、いくら私が馬鹿だからってこんなものでオンちゃんの心の中が見えないことくらい…」
有木「言われた通りになさい。あとで私が、ワイハーに連れてってあ・げ・る・か・ら」
チエ「見ず知らずのオヤジとハワイなんて行きたかないわよ!」
門前「つべこべ言わずにとっととやれ!」
チエ「命令ばっかり。ワンマン社長の下のタレントは惨めだわ…」

門前「……ジレッタに入ったようです」
有木「彼女は一体何者なんだ」
門前「あぁ。自分のことを山辺のフィアンセだとか言う頭のおかしい女です」
有木「この男がフィアンセだと?羨ましい男だな!」
門前「実際はそうでもありませんよ」
有木「どういう意味だ」
門前「それより社長の会社日天肥は、来る万博の会場でパビリオンを出展する予定がおありだとか」
有木「左様!我が社日本天然肥料は、世界中のトイレが一同に会するトイレ館を建設する予定なんじゃ」
門前「えぇ?トイレって…いやいや…ハハハ……」
有木「ん?」
門前「いっ、いやぁトイレ館も魅力的ですが!ここは一つ、ジレッタで勝負してみては?」
有木「ジレッタ館か!」
門前「その通り!」

チエ「あれっ?私…」
門前「俺の言ってたことは嘘じゃなかっただろ」
チエ「はい!不思議な世界でオンちゃんが私に言ってくれました。俺が愛するのは君だけだ。腹いっぱい食べるがいいって」
門前「そんなこと本当に言ったのか?」
有木「よし決めた!トイレ館は撤回!ジレッタお披露目といこうじゃないか!!」
門前「社長!」
チエ「ジレッタって何なんですか?オンんちゃんもさっき同じことを」
門前「チエ。お前の彼氏はとんでもない才能の持ち主だったぞ。これからこいつは、いや彼は、前代未聞の大成功を収めるんだ!」

M12 ハロー・ジレッタ




第一幕 終


 




♢第二幕♢

M13 リアルの国からおじゃまします


~ジレッタ館~
門前/チエ/山辺/有木「ありがとうございました!」
有木「大成功だよ門前君!ライバルと目されていたアメリカ館は閑古鳥が鳴いているそうだよ
門前「社長のおかげですよ」
有木「はっはっは…いやこれは全てミスタージレッタこと…山、やま…山近くんのおかげだよ」
山辺山辺だよ!山近って誰だよ!」
有木「それは失敬」
山辺「いい加減世界の名所巡りにも飽きちまったんで、ここらでエロい妄想入れてもいいっすか?」
有木「エロい妄想、いいねぇ~」
チエ「だめよ!小さい子も見に来てるんだから」
門前「どうせエロくならないよ。出てくる女はみんなこのツラなんだから」
山辺「いけねぇってのか!」
有木「まあまあ。ゆっくり休みたまえ。午後の妄想に備えてな。では失敬」
門前「社長!お疲れ様でした」
有木「あぁお疲れ!エロい妄想、いいねぇ~!ハッハッハッハ!」

門前「リエ!来てくれたのか」
リエ「結構な盛況ぶりで」
門前「まあな。毎日のように世界中から取材が来ているよ。今ならお前も仲間に加えてやってもいいぞ」
リエ「…しばらく見ない間に平凡な顔になったものね。まるで別人よ」
門前「別人?小百合チエじゃあるまいし」
リエ「それともこっちが素顔かしら。またどこかで会った時、気付けるといいんだけど」
門前「おいどういう意味だ。リエ!」

門前「…チエ、こっちに」
チエ「はい」
山辺「おい、人の彼女気安く呼びつけんなよ」
チエ「いいから!」
門前「土曜日に部屋に行くよ。それまでにコンディションを整えておけ」
チエ「また断食しろって言うんですか!?」
門前「忘れたのか。お前はジミーの一件で我が門前プロに大損害を与えたんだ!」
チエ「…分かりました」
門前「それでいい」

山辺「またあいつに苛められたのか?」
チエ「オンちゃん。私待つよ、あんたとの結婚。オンちゃんが成功して、誰も頭が上がらなくなるまで待つから」
山辺「なんだよ急に」
チエ「今のオンちゃんの勢いはすごいもん。それを式場選びだの、披露宴会場選びだの、引き出物選びだので止めちゃいけないよ」
山辺「キミちゃん…なんてかわいい人なんだ!(抱)」
チエ「頸動脈っ…!」
山辺「ああごめん。…確かにここは踏ん張りどころなのかもしれないな」
チエ「それが分かったら私に構わず行って。午後からはヨーロッパのお城巡りでしょ」
山辺「ああ。ヨーロッパのガイドブック、穴が開くほど読み込んでやるよ!」
***
チエ「…」
竹中「そこにいるのは晴海なぎさじゃない?」
チエ「竹中社長!と、秘書のナントカさん。どうしてここに」
竹中「隠さなくてもいいのよ。ジレッタを発明した山辺音彦さんはあなたの恋人なんでしょ?だからここに来ればあなたに会えるって思ったのよ」
チエ「私に?」
竹中「許してちょうだいなぎさ。あなたを手放したことはこの竹中郁子、一生の不覚だった!」
秘書「君の才能を妬んだほかのタレントが流したあらぬ噂に我々はまんまと騙されてしまったんだよ」
チエ「覆面を取ったからクビになったんじゃないんですか?」
竹中「まさか!然るべき時が来たらちゃんとあなたのその美…美…びぼ…びぼ~…」
秘書「郁子!」
竹中「おう。美貌をね!皆さんに披露する予定だったのよ」
チエ「そうだったんですか!」
竹中「お願いなぎさ。もう1度力を貸して」
チエ「でも私はもうすでに別の事務所に」
竹中「戻ってきてくれたら待遇は見直すわ。そうね、ギャラの配分も7:3にしてあげる」
チエ「さ、さ、3割もいただけるんですか!私社長に掛け合ってみます!」
竹中「いい返事を待ってるわ」
チエ「よろしくお願いしまーす!!」
***
秘書「将を射んと欲すればまず馬を射よ」
竹中「ジレッタさえ手に入れてしまえばあんな女に用はないわ!まあそれまではせいぜい、大切に扱っておやり」
秘書「かしこまりました」
***
門前「聞いたか山辺。あれが悪名高い竹中プロの竹中郁子だ」
山辺「俺のキミちゃんを…!」
門前「制裁を加えたいならいい方法がある。ジレッタさ」
山辺「ジレッタ?どうやって」
門前「想像しろ山辺この国の芸能界には奴隷のようにこき使われてるか弱い娘が大勢いるんだ」
山辺「許せねぇ!」
門前「あぁそうだ。怒りのジレッタを見せてやれ…」
***
竹中「まぁ、私のためにジレッタ館を貸切に?」
門前「ショービジネスのプロである社長に、一般客と同じ子供だましをお目にかけるわけにはいかないですよ」
秘書「何か裏があるんじゃないのかね」
門前「まあ正直言うと、馬鹿にされたくなかったんですよね。一押しの特製ジレッタを見てもらいたかったんです」
竹中「あの、彼は何で私のことを睨んでるの?」
門前「あ、あぁー、集中してるんだよな?」
山辺「どうぞ。ご堪能しやがれ…!」
門前「さ。これを」
竹中「ジレッタって見るもんじゃないの?」
門前「見るというより、味わうんです。全身でねえ…?」
***
竹中「何も聞こえないわ。故障してるんじゃない」
秘書「しゃ、社長!あれは!」
竹中「なぁにこの小っ恥ずかしい娘達」
秘書「我社をクビになった元アイドル達です!」

M14 アイドルの逆襲


門前「これぐらいで勘弁してやるか。おかえりなさーい。気分はどうですか?」
秘書「貴様…!」
竹中「最高の気分…めいいっぱい元気を貰ったわ。郁子、明日っからも頑張ります。I・L・O・V・E K・U・K・O 郁子♡ アハハハハハ」
秘書「社長が壊れちゃったよーーー!」

門前「…お前は一体何を見せたんだ」
山辺「全部あいつらがキミちゃんにしてきたことさ」
門前「俺が思ってる以上だな、ジレッタの威力は」
山辺「あぁそうさ。だから覚えとけ。俺はアンタを発狂させることだって簡単に出来るんだ」
門前「あ''?」
***
秘書「竹中プロは我が社の社長・竹中郁子の精神を狂わせた山辺音彦を告訴する!」
門前「山辺ーー!!」
裁判長「証人は速やかに証言台に」
門前「失礼しました」
検事「では門前さん。あなたは今回の件とジレッタは無関係だと主張されるんですね?」
門前「ジレッタは合法的な催しなんです。訴えられる筋合いはありません!よかったら皆さんも一度観にいらしてください。平日の昼時が狙い目です」
裁判長「神聖な法廷で宣伝はやめなさい」
門前「失礼しました」
裁判長「被告人、最後に話しておきたいことは」
山辺「なんでこんなことになっちまったんだか。皆さんだって妄想くらいするでしょ。いろいろ上手くいって大成功するだとか、嫌いな奴がひっどい目に合うとことか、好きな子といいムードになって1発やっちゃうとか!2発!3発!みんな好き勝手やってるのに納得いきません!」
裁判長「静粛に!これより判決を言い渡します。被告人山辺音彦は……無罪!」
全員「……えっ!?」
(飛び交う野次)
裁判長「静粛に!静粛に!!」
山辺「俺、無罪になったのか!?」
門前「だが誰1人納得してないな」
山辺「無罪ーー!」
門前「とっとと出よう。ぐずぐずしてると判決が覆りそうだ!」

M15 ジレッタに出して


門前「相変わらずえらい破壊力だな、こっちの顔は」
有木「ジレッタへの出演希望者は後を絶たんよ」
門前「山辺次第でルックスをいくらでも補正できますからね」
有木「だからって実物が変わるわけでもなかろう」
門前「彼女達にしてみればどっちでもいいんです。それが本物だろうと偽者だろうと、可愛いとさえ言ってもらえれば」
山辺「その様子だとまた何日も食ってないんだろ」
チエ「裁判の様子が気になってね」
山辺「よし!腹いっぱい食いに行こう!」
チエ「シャバに戻ったお祝いね!」
門前「その前に言うことがあるだろ!お前を無罪にしてくれた恩人に!」
山辺「どうもすいませんっした」
チエ「じゃ、続きはごはんの後で」
有木「いや!さすがに私の力だけでは無理だった。さるお方の協力が無くてははな」
門前「さるお方とは…」

門前「し、塩釜首相!?」
チエ「総理大臣だよオンちゃん!」
山辺「じゃあ総理が俺を無罪に!?」
首相「山辺さん。あなたはジレッタという独自の表現活動をなさる、無形文化財だそうですね」
山辺「無形?」
門前「いいから!」
首相「その方を刑務所送りにしたとあっては、日本の恥です」
有木「ここまでして頂いたからにはご恩返しをしない訳にはいかんだろう
山辺「じゃあ、似顔絵でも」
閣僚一同「(大笑)」
首相「失礼です! …似顔絵も結構ですが、この機会に私にそのジレッタとやらを拝見させていただけませんか
門前「それは無理です。専用の設備がないと」
有木「それがここには、あるんだよ」
山辺「本当だ!」
チエ「偶然ね」
門前「…社長ですね」
有木「門前くん!首相をお待たせしちゃいけないよ。 さっ、首相こちらへ」
門前「…かしこまりました」

門前「これは何かありそうだな」
チエ「何かって?」
門前「ジレッタ鑑賞だけが目的じゃないってことさ」
山辺「で、何を見せる?」
門前「そりゃあ政治家が喜ぶもんっつったら、あれだろ」

M16 邪道の嘘つき


門前「首相、大丈夫ですか!? お前は一体何を見せたんだ!」
山辺「俺は元々政治家ってやつがあまり好きじゃないんでね」
有木「首相!いかがでしたか」
首相「聞きしに勝るものでした…」
閣僚「ジレッタがもし野党の手に渡れば選挙に利用されてしまいますな」
有木「てめぇらはどうなんだって話ですが…」

首相「門前さん、山辺さん、大変な貴重な体験をさせていただきました。そこで提案なんですが、全国に放送網を敷きジレッタの公共放送を始めてみてはいかがでしょう」
チエ「NHKみたいなもの?」
首相「国が全面的にバックアップいたします」
有木「もちろん我が社、日本天然肥料もな」
門前「ぜひやらせてください。それこそ俺が望んでいたことです…!」

1年後~
門前秘書「放送総局長」
門前「何かね」
門前秘書「間リエという方がお見えです」
門前「何!あのリエかね」
門前秘書「…どの?」
門前「あのリエかね」
門前秘書「……どの?」
門前「通したまえっ」
門前秘書「かしこまりました」

リエ「何なのその喋り方」
門前「あのリエだぁ!」
リエ「このリエよ」
門前「一体何をしてたんだね」
リエ「まあ色々と」
門前「こっちも色々あったよ。あぁ、こっちの情報は全部筒抜けか。なんせ始終マスコミが張り付いてたからなぁ~」
リエ「ごめんなさい。近ごろテレビも新聞も見てないの」
門前「まぁ、とにかく会えて嬉しいよ。君は必ず俺に会いに来てくれると思ってたよ」
リエ「お別れを言いに来たの」
門前「!」
リエ「私、結婚するのよ」
門前「誰と」
リエ「あなたの知らない人。世界を飛び回るバイヤーよ。今夜彼とジュネーヴに発つわ」
門前「そいつは急だな」
リエ「それじゃ、そういうことだから。さようなら」
門前「…俺に止めてもらいに来たんだろ!」
リエ「は?」
門前「プライドの高いお前が、そこら辺の男で満足するはずが無い。結局お前には俺しかいないんだよ」

M17 ありふれた男


門前「リエ!戻ってきてくれ!!!」
山辺「なんだよ騒がしいな。ちっとも集中できねぇぞ」
門前「政府が用意した試験放送の台本か」
(破き捨てる門前)
山辺「おわっ!」
門前「こんなもん無視して好きにやれ」
山辺「そういう訳にもいかねえだろ」
門前「山辺!お前は芸術家だろうが。公共放送だろうと関係ねぇ。自由にやるんだ。全力でふざけてやれ!!!」
山辺「お前そんなこと言って責任取れんのかよ!」
門前「取らない!!!!」
山辺「取らないの…?」
門前「放送が始まった途端、面子を潰された政府の連中は血相変えて俺達のことを捕まえに来るだろうよ。ところがその頃には海外に高飛びだ」
山辺「海外!?」
門前「行先は………ジュネーヴ
山辺「どこだ、そこ」
門前「俺はやるぞ。これ以上ぬるま湯に浸かってたら風邪引いちまう。虚構の天才門前市郎、完全復活だ!!」
***
首相「いよいよですね」
門前「さながら死刑執行前の気分ですよ」
首相「誰があなたを死刑になんてするもんですか。放送が終わる頃にはあなたは英雄です!」
有木「いささかお硬い内容だが、まあいいでしょう」
門前「それじゃ、あとはごゆっくり」
有木「君は見ないのか」
門前「死刑執行前の気分にも2通りあるでしょ。死刑される側と、する側の」
首相「どういう意味ですか」
有木「ずぉっと!そろそろ放送が始まりますよ」
首相「…ずぉっとって何です?」

M18 虚構の共犯者 ( リプライズ )

チエ/山辺:強い財界 頼れる政府 大好きな日本
首相「素晴らしい!どの角度からもお叱りを受けない、公共放送のあるべき姿です」
有木「味も素っ気もなくてたまりませんな」
首相「…門前さん!?」
有木「台本にはありませんが」
門前:すべてまやかし すべては虚構

アンビバレントなニッポン社会 アンビバレントなボクらの社会
首相「国民の皆様になんてことを!今すぐ放送を中止しなければ、衆議院解散します!」
有木「ジレッタの中で何を訴えても、現実世界に声は届きませんよ!」
首相「そんな...声が届かないのは国民の方だとばかり思っていたのに...」
門前:作り笑顔の世渡り上手 さらせ ジレッタで本性を

首相/有木/閣僚:身柄拘束 誰にも渡すな ジレッタ! ジレッタ!
(コール音)
門前「ハロージミー」
ジミー「門前…!」
門前「あんたの友人のバンドが今日本に来てるよな。そこで頼みがあるんだが、そいつらが帰る時に山辺って日本人を連れてって欲しい。ただし、誰にも気づかれないようにな」
ジミー「亡命ってことか…!」
門前「嫌とは言わせないぜ!あんたは俺にでかーい借りがあるんだ」

首相「門前さん!」
有木「門前!」
門前「何か不満でも?妄想でも言ってることは真実ですよ」
門前:すべてまやかし すべては虚構



~飛行機貨物室~
ナレーション「対抗勢力にジレッタを奪われることを恐れた日本政府は、山辺を指名手配した。しかし時すでに遅し。山辺は飛行機の貨物室に身を隠し、一路スイスを目指していた。ところが誰でも24時間もの間、こんなところに閉じ込められていては…」

M19 機内のシンパシー

空港スタッフ:中身を拝見
山辺:中身は楽器
空港スタッフ:念のため
山辺:楽器だよ!
山辺「ちくしょう!どいつもこいつも眠っちまえー!!」
乗客:Landing 他人だったあなたが今 苦楽を共にした仲間
山辺「本当に寝ちまった…」
乗客:Miracle in the sky


~門前のアジト~
門前「そいつは飛行機の爆音が原因だな」
チエ/山辺「(食べ物の話)」
門前「つまり爆音の中の超音波がお前の脳を刺激した」
チエ/山辺「(食べ物の話)」
門前「そうして発生したジレッタを、同じく爆音の中に居た乗客乗員が体験したってわけだ」
チエ/山辺「(食べ物の)」
門前「すごいことだそこれは!もうヘッドホンなんていらない!お前は自由自在に…」
チエ/山辺「(食べ物)」
門前「聞けよーーー!!!!なんだお前ら、顔を見合わせる度に食いもんの話ばっかり!これが一世を風靡したアイドルと、かのジレッタアーティストの会話か!?」
チエ「私はほとんどデビューと同時にコケました…」
山辺「俺ももうジレッタとはすっぱり縁を切る!」
門前「お前はとうとう覚醒したんだぞ。これで世界中にジレッタを見せてやれるんだ」
山辺「世界中に見せて次はどこに逃げるってんだよ。宇宙か?はっ。くだらねぇ!おれはもうやんねぇからな!」
チエ「気持ちは分かるよ」
門前「ジレッタをやめて何になるってんだ?また漫画家か?日本じゃウケなくてもスイスじゃウケるってか?お前ら結婚するんだろ!?一体何で食ってくつもりだ!!」
山辺「そんなにポンポン聞くなよ」
チエ「それに、ジレッタをやったってちっともお金は溜まりません」
門前「頭を使えよ頭を。こいつが眠れと念じただけで空港中の人間が寝ちまったんだぞ。ってことはだ。例えば、スイス銀行に俺たちの貯金が1億マルクあると思わせて…………小さい。小さすぎる。これが天才門前市郎の発想か!!」
チエ「あの人誰と喋ってるのかしら」
山辺「自分で自分を天才って言うぐらいだから頭おかしいんだよ」
門前「…山辺。お前言ったよな、宇宙へ逃げるのかって!」
山辺「言ってねぇ!」
チエ「言ったわよ!」
門前「そうだ。いっそ地球を飛び出し宇宙へ目を向けるんだ!…こういうのはどうだい。月が地球に接近してきて、終いには衝突する」
チエ「月が!?」
門前「世界中にそう思い込ませるんだ」
山辺「そんなことしたらどうなっちまうんだよ」
門前「それはさすがの俺にも分からない。パニックになって崩壊するか、あるいは新たな世界が生まれるかもしれない。…なぁ山辺俺達は何のために日本を飛び出してきたんだ」
山辺「指名手配から逃れるために…」
門前「そうじゃない。お前の才能を受け止める器として、日本は小さすぎたからだ。どうなんだ山辺芸術家として生まれたからにはより広い世界で勝負したいと思うのが普通だろ?」
チエ「だめだよオンちゃん、この人勢いだけで話して」
門前「黙ってろチエ!!!!これは男同士の魂の会話だ!」
山辺「そりゃあ俺だって1発当ててやりたいけど…」
門前「決まりだな。タイトルは地球最後の日。決行日までにイメージを固めておけ。世界中が信じて疑わない、地球滅亡のイメージをな…」

チエ「…」
山辺「…ははっ。大丈夫だよ!いくら俺の感度が上がったからって…」
チエ「オンちゃん!言いたい事は山ほどあるけど…」
山辺「言ってくれ」
チエ「けど、今はお腹が空いて…」
山辺音彦「ああそうか!続きは腹いっぱい食ってから話そうな!」
チエ「そうしていい?」
山辺「もちろんだとも!キミちゃんがいつも満腹でいられること。それが俺の1番の望みさ」
チエ「オンちゃん…」

~リエ宅~
門前「へぇー。バイヤーってのはそんなに儲かるのかい。旦那は麻薬でも売り捌いてるんじゃないのか」
リエ「不可能だわ!世界中の人が超音波を受信するなんて!」
門前「…明朝、アメリカがロケットを発射する。なんと友人ロケットが火星に向けて飛び立つんだ」
リエ「!」
門前「当然人々はテレビやラジオに釘付けだ。その様子は全てアメリカの宇宙基地から流される。じゃあその基地から超音波を発信したとしたら?」
リエ「そんなこと出来るわけ」
門前「この俺に出来ないと思うか!…地球が終わるとなれば大虚構どころの騒ぎじゃない。特に取引で食ってる人間なんかは、真っ先に気が狂うだろうよ」
リエ「主人のことを言ってるの!?」
門前「あー。そういえばご主人は、バイヤーだったよねぇ?」
リエ「脅迫するつもり!?」
門前「いや。俺はただ今後の予定を」
リエ「何が望みなの!!!」

M20 ただ1つの真実


門前「だったら地球が終わる間、せいぜい旦那に言い聞かせてやるんだな。これは全部妄想だって!!!」
リエ「待って!!!…そんなことさせないわ。絶対に…!」

ライン川
チエ「オンちゃん、あんた本当にやるつもりなの?」
山辺「キミちゃんが言ったんだぞ。俺が成功するまで結婚しないって」
チエ「世界中の人にご迷惑をかけることが成功?」
山辺「その先に成功があるんだ。全てが終わって全部が妄想だと分かった時、世界中が俺のことを見直すんだよ」
チエ「先生みたいなこと言って」
山辺「…ほら。チーズでも食って機嫌直せよ」
チエ「ありがとう!」

山辺「誰だ?」
チエ「あの人たしか先生の…」
山辺「ああ。門前の別れた女房か」
リエ「呑気な顔して、いい気なもんねぇ!?…醜い顔」
山辺「なんだよお前。顔のことばっかり!」
リエ「最初からそのお顔が相手なら、私もあいつに醜態晒さずに済んだってことよ」
チエ「行こ!オンちゃん!」
リエ「ええあなたは消えて。私が用があるのは山辺さんの方だから」
山辺「俺?」
チエ「オンちゃんに何の用だよ!」
リエ「あなたに言う必要が?」
チエ「言いなよ!」
リエ「あなたにだって言えないことの一つや二つあるでしょう」
チエ「無いよ!」
リエ「じゃあ山辺さんは知ってるの?あなたと彼の関係を」
山辺「彼?」
リエ「デビューに失敗したあとも毎週末小百合チエになっていたのは何故?」
チエ「行こうオンちゃん!」
リエ「ずるい女!嫌がってるふりして、上手に二つの顔使い分けてたんだわ」
チエ「それ以上あたしの事侮辱しようってんなら、2度と口を聞けないようにしてやっからな!」
リエ「やってごらんよ。ブス」
チエ「!(リエに平手打ち)」
山辺「あっ、チーズ!」
リエ「ふんっ!(チエに平手打ち)」
チエ「このアバズレ!絶対に許さねぇかんな!」
山辺「待ってキミちゃん!」
リエ「あなたは私と来るの!」
山辺「いやいやいや」
チエ「待てーー!」
リエ「!」
山辺「キミちゃん何持ってんだよ!」
チエ「忘れたの!?あたしはミス丸太ん棒よ!」
山辺「いやそれ意味違うし!」
チエ「その手を離せこのアバズレ!よくもあたしの男に!」
リエ「あなたに言われたくないわよ!」
山辺「キミちゃん危ないって!川に落ちたらどうすんだ!」
リエ「聞いて山辺さん!あなたの彼女はずっと前から門前と!」
チエ「こいつ!!…キャーーーーー!!!」
山辺「キミちゃん!キミちゃーーーーん!!!」

ナレーション「ライン川の流れは早く、瞬く間にチエを押し流していった。偶然通りかかった遊覧船に救出された時、チエはすでに意識不明の重体だった」

~病院~
看護師「門前さん、シカゴより国際電話です」
門前「ありがとう……門前だ」
ギャングボス「よう。調子はどうだ」
門前「最悪だ」
ボス「そいつぁ良かった。こっちは準備万端だ。宇宙基地のアンテナに細工してやったぜ」
門前「山辺のフィアンセが瀕死の状態なんだ。今の山辺はジレッタどころじゃない」
ボス「そいつぁ良かった」
門前「あんた俺の話聞いてんのか!」
ボス「門前!俺たちファミリーはこのビジネスに大金を掛けてんだ。ミスタージレッタのスケがくたばろうがなんだろうが、後戻りはきかねぇんだよ」
門前「脅したって無駄だぞ…この門前市郎は、相手がギャングだろうと大統領だろうとよ!」
ボス「発射時刻はそっちの時間で……何時だっけ?」
門前「もしもし…」
(揉めるファミリー)
ボス「おい喧嘩はやめろ。喧嘩はやめろー?」
門前「もしもし…!」
舎弟「みっ、明朝6時です」
ボス「明朝6時だ!」
門前「待ってくれ!」
ボス「待てねぇな!!どこにも逃げられねぇからな…」
門前「もしもし、もしもし!」
看護師「門前さん!チエさんが…!」
***
医者「いやはやびっくりです」
門前「じゃあチエは…ありがとうございます!」
医者「いきなり美人になった!」
門前「そっち!!?」

チエ「オンちゃん、あたしあんたに会えて良かったよ」
山辺「俺のほうこそ」
チエ「なんだか随分遠くまで来ちまったね」
山辺「あぁそうだな。元気になったら田舎に帰ろうな!」
チエ「それはちょっと…無理かもしれない…」
山辺「どうして…!」

M21 食うか飢えるか ( リプライズ )


山辺「きみちゃん!」
門前「チエ!」
医者「……ご臨終です」
山辺「嘘だろ!?キミちゃん!うわああああぁぁ!!!!」
門前「…」
山辺「何でキミちゃんが死ななきゃならないんだ!」
門前「分からない」
山辺「答えろ!」
門前「俺の専門はフィクションなんだ!現実については、何一つ説明してやれない」
山辺キミちゃんのいない世界なんて生きてて一体何になるってんだ!だったら俺も死んでやる!」
門前「馬鹿言うな…!」
山辺「…おい、こんな時にも時間が気になるのか?」
門前「いや…」
山辺「お前って奴は、この期に及んでまだ俺にジレッタをさせようってのか?」
門前「やりたくないなら中止にするまでさ」
山辺「出来もしないくせに!」
門前「出来るさ!!…殺されるかもしれないけどな」
山辺「…」
門前「…」
山辺「…やるよ」
門前「!」
山辺「キミちゃんのいない世界なんて、めちゃくちゃにぶっ壊れちまえばいい!完全に消えちまえばいいんだ!」
門前「……あぁそうだ…消せ…消せ…!地球丸ごと吹き飛ばしちまえ!!!」

~翌朝~
ボス「準備はいいか」
門前「あぁ、いつでもオーケーだ」
ボス「ニューワールドの始まりだな。グッドラック…」

門前「いくぞ…山辺…」
Ignition sequence start, five, four, three, two, one, zero
門前「今だ…始めろ!!!!」

M22 Ave DILETTA
Ave DILETTA Ave DILETTA...
門前「 いいぞー山辺…いい感じだ!…さぁ星よ…思いっきりぶつかって来い!!ハハハハハハ……!!!!」

山辺「キミちゃんのいない世界なんて、めちゃくちゃにぶっ壊れちまえばいい!完全に消えちまえばいいんだ!」
門前「山辺…」
山辺「だったら俺も死んでやる!」
門前「山辺…お前!」

チエ/山辺
有難う またね 気をつけて
明日も 会おう あさっても
いつも同じくりかえし ぐるぐると
わたしときみの わたしときみの 帰り道

門前「行くな山辺!お前が消えちまったら、誰がジレッタを止めるんだ!!!」


門前「離せ!俺は行かねぇぞ!妄想だ!全部妄想だ!!妄想なんだ!!!……………現実!!!!!!」














≪つづく≫







≪おしまい≫



第二幕 終



カーテンコール
M23 上を下へのジレッタ